企業と国家のビットコイン採用——「採用」という一語が隠すもの

企業と国家のビットコイン採用——「採用」という一語が隠すもの

Bitcoin Japan
Bitcoin Japan
8 分で読めます

「ビットコインを採用した」という見出しは、もう珍しくありません。上場企業がバランスシートに加え、国家がビットコインを準備資産として位置付け始め、押収したコインを売らずに抱える政府まで現れています。けれども「採用」という一語は、動機も制約もまったく異なる行動を、ひとまとめにしてしまいます。事例を並べて数えるよりも、誰が・何のために・どう持つのかで仕分けたほうが、地図ははるかに読みやすくなります。近年は国家が準備の枠組みを動かし、企業の保有が一部へ集中していくなかで、「採用」という言葉が指す中身そのものが変わりつつあります。 

「採用」を二つの軸で分ける 

整理の起点は二つだけで十分です。ひとつは主体(企業か、国家か)。もうひとつは行動——準備資産としてバランスシートに置く「保有」か、決済・担保・流動性の手段として動かす「利用」か、です。 

押さえておきたいのは、世に言う「採用事例」の大半が、実は利用ではなく保有だという点です。この区別を持っておくと、後で出てくるエルサルバドルのような一見ねじれた事例も、矛盾なく置けるようになります。 

企業——準備資産としての保有が中心 

企業側の中心は、世界最大規模の企業保有者であるストラテジー社(旧マイクロストラテジー、マイケル・セイラー氏が主導)です。2020年以来、流通量の数パーセントに相当する規模を積み上げてきました。設計の核は単純で、株式・転換社債・優先株で資金を調達し、それをビットコインに替えていきます。結果としてこの会社の株式は、ビットコインそのものへの投資エクスポージャー(値動きへの連動)を提供する存在として扱われるようになりました。 

ここで重要なのは、二つの点です。第一に、保有の継続が資金調達環境に依存することです。鍵になるのが、企業の株価が純資産価値(NAV)に対してどの程度高く評価されているかを示す指標——mNAVです。ビットコイントレジャリー企業では、その純資産の大部分をビットコインが占めるため、mNAVは資金調達力を考える上で重要な指標として使われています。株価が純資産を上回って評価されているうちは、新しい株式を有利な条件で発行して資金を集めやすくなり、その資金をビットコインの購入に充てられます。逆にmNAVが低下すると、こうした資金調達が難しくなり、同じペースで買い増しを続けることも難しくなります。つまり、この会社のビットコイン戦略は、市場からの評価が高いほど回りやすいという構造を抱えています。第二に集中です。公開企業が保有するBTCの大半が、ごく少数の企業に偏っています。メタプラネット(日本、円建てで調達)やトゥエンティワンといった派生型も現れましたが、企業による準備保有は広く分散したというより、一部の企業へ集まっているのが現状です。「採用が広がった」よりも「特定の主体に集まった」と見るほうが、実態に近いといえます。

国家——動機は一枚岩ではない 

国家の採用は、企業よりもさらに動機が割れます。入り口は大きく四つに分けられます。 

  • 法定通貨としての採用——エルサルバドルが2021年に踏み込んだ経路です。ただしその後、IMFとの合意を受けて義務的な受け入れは後退しました。一方で、準備資産としての保有は続いています。利用が縮み、保有が残る——「保有」と「利用」が別の軌道だとわかる典型例です。 

  • 戦略準備——米国が大統領令で動かした枠組みです。押収したBTCを原資に「売らない」と定めました。さらにこれを法律として固定する案も議論されていますが、制度として確定したものではありません。 

  • 押収資産の保有判断——米国や中国が抱える大量のBTCは、買ったものではなく差し押さえたものです。売却するか持ち続けるか、その判断自体が、消極的な「採用」になります。 

  • マイニング——ブータンのように、余剰電力を採掘で価値に変える経路です。保有の入り口が市場での購入ではない点が、他と性格を分けます。 

共通して問われるのは「売らない」をどう担保するか 

主体が企業でも国家でも、保有の信頼性は約束の設計に宿ります。大統領令は政権が変われば覆せます。だからこそ、法制化・ロックアップ期間・保有証明・財政中立といった仕組みが、議論の中心に移っていきます。企業の側も同じで、調達構造が傷めば「持ち続けられる」とは限りません。 

ここで注目したいのは、「いま持っているか」よりも「持ち続けられる設計になっているか」という点です。発行上限という土台の上で、誰がどんな約束で保有を固定しているか——そこが採用の質を分けます。 

それでも保有が続く理由と、残る注意点 

価格が冴えない局面でも保有採用が途切れにくいのは、その論理が価格に依存していないからです。発行上限が決まった資産を、希薄化していく法定通貨建ての準備資産への備えとして置く——この組み立て自体は、相場の上下と関係なく一貫しています。固定供給と自己保管というビットコインの設計思想が、準備資産としての採用を下支えしている、と見ることができます。 

そのうえで残る注意点は二つあります。集中(少数の主体に偏ること)と、保有と利用の混同です。「採用が増えた」を「使われ始めた」と読み替えないこと。決済通貨としての普及と、準備資産としての保有は、別の現象として走っています。 

ニュースを読むときのフレームワークとして 

ここまでの整理は、そのまま日々のニュースの読み方として使えます。次に「○○がビットコインを採用」という見出しを見たら、次の三つを当てはめてみてください。 

  1. 主体——企業ですか、国家ですか。 

  1. 行動——準備資産としての「保有」ですか、決済や担保としての「利用」ですか。 

  1. 設計——「売らない」「持ち続ける」を担保する仕組みがありますか。 

事例をひとつずつ数えるよりも、この三軸に通すほうが、同じ「採用」という言葉が指している中身の違いが見えてきます。採用事例が増えていくこれからは、数の多さよりも、こうした仕分けの眼を持っているかどうかが、ニュースの解像度を分けていくはずです。 

ビットコインジャパン™(BITCOIN JAPAN™)

Bitcoin Japan

Bitcoin Japan

Bitcoin Japanは、Metaplanetが運営する日本発のビットコイン特化型メディア兼データプラットフォーム。オンチェーン分析や市場データ、基礎知識コンテンツを日本語で提供し、初心者からプロまで幅広い読者に向けて、ビットコインデータの理解と活用を支援する。

Bitcoin Japan のすべての投稿を見る
最新情報を入手!

新しいブログ投稿をあなたの受信箱に配信するために購読してください