ビットコイン・マイニングと電力市場——「止められる需要」は電力網の中で何をしているのか

ビットコイン・マイニングと電力市場——「止められる需要」は電力網の中で何をしているのか

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ビットコインのマイニングは、大量の電力を使う産業として語られる一方で、電力網の需給調整に役立つ需要として取り上げられることもあります。同じ電力消費が、なぜ正反対の文脈で語られるのでしょうか。電力が時間と場所によって価値を変えるという点から、マイニングが電力市場の中でどのような需要として振る舞うのか、そしてその構造が一部のマイニング企業のAI・HPC事業への動きとどうつながるのかを整理します。

電力の価値は、時間と場所で変わる

マイニングと電力市場の関係を考えるときは、「年間でどれだけ使うか」より先に、「いつ、どこで使うか」を見る必要があります。電力は大量に貯めておくことが難しく、発電と消費を常に一致させなければなりません。そのため同じ1kWhでも、時間帯や地点によって価値が大きく変わります。

米国の多くの卸電力市場では、送電網上の地点ごとに価格が付きます。送電線の容量には限りがあるため、ある地域で発電が余っていても、需要地まで運べなければその地域の価格は下がります。逆に、需要が集中する時間帯や、発電所の停止が重なった時間帯には、価格が大きく跳ね上がることがあります。

価格がゼロを下回る時間もあります。米エネルギー情報局(EIA)は、停止や再起動にコストがかかる発電所が運転を続けようとする場合や、風力発電が発電量に応じた税控除を受けられる場合に、負の価格が生じうると説明しています。発電量が需要や送電容量を上回れば、発電そのものが抑えられます(出力制御)。EIAによると、カリフォルニア州の系統運用者CAISOは2024年に風力・太陽光の出力を約340万MWh抑制し、その93%が太陽光でした。

こうした市場では、「大量に電力を使う」ことと「電力市場に悪影響または好影響を与える」ことは、別の問いになります。需給が逼迫した時間に使い続ける需要は、価格を押し上げ、系統の余裕を削ります。発電が余っている時間や場所で使い、逼迫した時間に止まる需要であれば、影響の現れ方は変わってきます。

量の面では、EIAは2024年2月に公表した暫定推計で、米国内の暗号資産マイニング全体の電力消費を、2023年の米国全体の電力消費の0.6〜2.3%程度としています。幅が大きいのは、施設の特定が難しく、稼働状況も変わりやすいためです。この数字は量を示すものであり、どの時間帯・どの地点で使われたかまでは表していません。

マイニングはなぜ「止めやすい」需要なのか

マイニングが柔軟な需要として扱われるのは、稼働を止めたときに失うものが、多くの産業と比べて小さく、しかも見積もりやすいためです。ただし、その柔軟性は無条件ではなく、マイニングの採算によって変わります。

比較すると違いが分かりやすくなります。製鉄や化学のプラントでは、炉や反応を途中で止めると、再開に時間とコストがかかり、製品の品質にも影響が出ます。企業のサーバーを預かるデータセンターが止まれば、顧客のサービスが止まります。マイニング機器の場合、電源を落とせば計算が止まり、電源を入れれば計算が再開します。途中の作業を引き継ぐ必要はなく、失うのは、止めていた時間に得られたはずの報酬の期待値です。

この判断は、収入と費用の比較で説明できます。収入側の目安になるのが、計算能力1単位あたりの期待報酬を示す「ハッシュプライス」で、BTC価格、ネットワーク全体のハッシュレート、取引手数料によって変わります。費用側で最も大きいのは電力代です。ケンブリッジ大学が2025年4月に公表した業界調査では、回答企業の現金ベースの運営費のうち、電力が8割を超えていました。機器によって電力効率が違うため、採算が合わなくなる電力価格も機器ごとに異なります。電力価格が上がれば、効率の低い機器から止める判断になりやすい構造です。

裏を返すと、止めるかどうかはハッシュプライスの水準にも左右されます。テキサス州の電力市場を分析した2026年の論文(査読前)は、マイニング負荷が電力価格の一定水準を超えると減り始め、その水準はハッシュプライスが高い時期ほど高くなると報告しています。マイニングの収益が高い時期には、同じ電力価格でも止まりにくくなるということです。止められることと、実際に止めることは同じではありません。

場所の面でも、柔軟性には限りがあります。マイニング機器は、大容量の通信回線や高度な空調設備を必ずしも必要としないため、比較的立地を選びやすいとされています。EIAも、マイニング機器は電力価格の安い地域へ比較的すばやく移されうると指摘しています。一方で、大規模な施設を建てるには、系統への接続の承認、変電設備や変圧器、用地が必要です。テキサス州の系統運用者ERCOTは、75MW以上の負荷を「大型負荷」と定義し、接続前に系統への影響を調べる手続きを設けています。機器は動かせても、接続済みの電力容量は動かせません。この点は、後半のAI・HPCの話につながります。

電力価格が上がったとき、マイナーは何をしているのか

電力価格が高い時間帯にマイナーが稼働を落とす経路は、大きく3つに分かれます。いずれも「需要を減らす」行為であり、電力を新たに生み出しているわけではありません。

  • 価格を見て自ら止める:卸電力価格にさらされている事業者が、採算の合わない時間に稼働を落とします。ERCOTでは、夏の各月で系統全体の需要が最も高かった15分間の消費量をもとに、翌年の送電費用の負担が決まる仕組み(4CP)があり、ピークが予想される時間帯に止める動機にもなっています。

  • 固定価格で買った電力を市場に戻す:米マイニング企業ライオット・プラットフォームズは年次報告書で、長期の固定価格契約で調達した電力について、市場価格が高いときには稼働を止めて電力を戻し、市場価格と契約価格の差額をクレジットとして受け取ると説明しています。同社が2023年に計上した、稼働を止めたことによるクレジットは約5,260万ドルでした。この経路は、固定価格の契約があって初めて成り立ちます。

  • 系統運用者に「止める権利」を売る:ERCOTでは、負荷を「ロード・リソース」として登録し、資格試験などを経れば、需給調整のための市場(アンシラリーサービス)に参加できます。前日の市場で選ばれた負荷は、実際に停止の指令が出なくても、待機に対する対価を受け取れます。前出のライオットは、こうした需要応答プログラムへの参加によるクレジットとして、2023年に約1,860万ドルを計上しています。

ERCOTは、ロード・リソースによる負荷の削減を、発電所の出力増加と同等の価値として扱っています。ただし、これは市場での扱いの話です。マイナーが止めると、その分の電力が他の需要に回りますが、送電網全体に新しい発電設備が加わるわけではありません。「マイナーが電力網に電力を戻した」という表現は、需要が減ったことを指しています。マイニング需要が長期的に発電投資を促すという主張は企業側にありますが、それは短期の需要削減とは別の論点です。

もう一つ見落とされやすいのが、止めるタイミングを系統運用者が把握しているかどうかです。ERCOTの担当者は2024年9月の資料で、大型負荷の大半は系統運用者の経済給電の仕組みに参加しておらず、価格に反応する負荷が調整なしに消費を急に変えると、周波数を保つための予備力を使い切るおそれがあると指摘しました。そのうえで、系統運用者の指令で消費を増減できる「制御可能なロード・リソース」としての参加が、信頼性の面では最適だとしています。柔軟な需要が系統の助けになるには、発電側の運用と協調している必要があります。

制度の側でも、止まり方の区別が進んでいます。テキサス州は2025年に大型負荷の接続ルールを見直す法律(SB6)を成立させました。2025年末より後に接続する大型負荷には、計画停電の際に送配電事業者が負荷を遮断できる手順の整備を求めています。また、緊急時に備えて大型負荷から需要削減を調達する新たなサービスについては、卸電力価格に応じて止める負荷の参加を認めないと定めています。価格を見て止まる需要と、緊急時に確実に止まる需要は、制度上も別のものとして扱われ始めています。

余剰電力・負の価格・フレアガス——「安い電気」は一つではない

マイニングが再生可能エネルギーや余剰電力と一緒に語られるのは、発電の変動に合わせて需要の側が動けるためです。ただし、「余った電気」と呼ばれるものには性質の違うものが含まれ、どれも「無料の電力」ではありません。

  • 低価格の電力:需要が少ない時間帯や、発電が多い地域で安くなった電力。買い手は料金を払います。

  • 負の価格の電力:発電側に運転を続けたい事情があり、価格がマイナスになった電力。短時間・特定の地点に限られることが多くあります。

  • 出力制御で使われなかった電力:需給や送電の制約で、発電できたのに発電しなかった分。系統には流れていないため、使うには発電所の近くに需要を置くなどの仕組みが必要です。

  • 送電制約で運べない電力:その地点では余っていても、系統全体で余っているとは限りません。

  • 系統外の未利用エネルギー:油田で、パイプラインがないため販売できずに燃焼処分される随伴ガス(フレアガス)など。

再エネの出力制御は、需給と送電の両方の理由で起きます。EIAの分析では、ERCOTは2022年に、発電可能だった風力の5%、太陽光の9%を抑制しました。EIAは、2035年に見込まれる抑制のうち約64%は再エネの発電量が需要を上回ることで生じ、需要の増加(例として蓄電池の充電)で減らしうる一方、約36%は送電容量の不足によるもので、送電網の増強で減らしうるとしています。発電の多い時間や場所で使い、少ない時間に止まる需要は、前者の抑制と組み合わせやすい性質を持っています。

日本でも再エネの出力制御が行われており、電力広域的運営推進機関(OCCTO)の資料では、2026年3月に九州を含む全国10エリアで実施されています。東京電力パワーグリッドの完全子会社であるアジャイルエナジーXは、2023年8月から群馬県昭和村の太陽光発電所の敷地内で、発電量に合わせてマイニング機器の稼働台数を自動で変え、系統へ電力を流さずに全量を使い切る実証を始めました。栃木県那須塩原市では、系統が混雑したときに機器を動かして需要をつくる実証も行っています。需要を減らす通常のデマンドレスポンスとは逆向きの調整で、同社は「上げDR」と呼んでいます。

一方で、相性が良いことと、環境への効果が確認されることは別の話です。前出のケンブリッジ大学の調査では、回答企業の電力のうち再エネと原子力を合わせた「持続可能な電源」が52.4%、単独の電源では天然ガスが38.2%で最大でした。ただし、これは企業の自己申告に基づく数字で、回答企業の計算能力は世界全体の約半分、拠点は米国に偏っています。再エネを使う比率が高いことと、マイニングが再エネの導入量を増やしたことも、別の問いです。余剰電力の買い手ができれば発電事業の採算が改善し、追加の導入につながるという主張はありますが、その効果を体系的に示すデータは限られています。

フレアガスについては、燃焼処分するより発電機で燃やして電力として使う方が、メタンなどの排出を減らせるとする分析があります。ただし、燃焼させる以上、二酸化炭素は排出されます。パイプラインなどガスを販売する手段が整えば、そちらが選ばれる可能性もあります。

同じマイニングでも、影響が地域ごとに異なる理由

マイニングが電力市場に与える影響は、立地、電力契約、市場の設計、発電構成の組み合わせで決まり、一つの評価にまとめることはできません。研究や議論も、その前提によって結論が分かれています。

  • 立地と送電:テキサスの系統モデルを使った研究(査読前)は、同じ規模の負荷でも、送電制約がかかりやすい地点では混雑と価格の上昇を招きやすく、場所によって影響が大きく異なると報告しています。同じ研究群は、価格に応じて止まる負荷であれば、こうした影響を和らげられるとも示しています。

  • 対価の配分:米議会調査局(CRS)は2026年4月の報告書で、需要をすばやく減らせることで費用を抑えたり対価を受け取ったりできる点を、マイニング事業者の機会とみる見方がある一方、異常気象で系統が逼迫した時期など、他の利用者が高い電気代に直面している時期に支払いを認める政策への批判もあると紹介しています。

  • 市場設計と発電構成:ERCOTは価格の振れ幅が大きく、負荷が需給調整の市場に参加しやすい設計です。市場の仕組みが違う地域では、同じ行動が同じ価値を持つとは限りません。稼働中や停止中に系統でどの電源が発電しているかによって、排出の評価も変わります。

一部のマイニング企業がAI・HPCへ向かう理由

一部のマイニング企業がAIや高性能計算(HPC)向けのデータセンター事業に動いている背景には、マイニングのために確保してきた系統への接続、電力契約、変電設備、用地が、電力の確保に時間がかかっているデータセンター需要にとって価値を持つようになった、という構造があります。

ERCOTによると、2026年半ば時点で、大型負荷の接続申請は合計43万8,000MWを超え、その約9割がデータセンターでした。ERCOTの過去最大の需要は、2026年7月22日の9万1,134MW(決済確定前の暫定値)です。申請のすべてが建設されるわけではありませんが、接続の審査には順番待ちが生じています。国際エネルギー機関(IEA)は2026年の報告書で、多くの地域で系統接続の待ち時間が5〜10年に及び、変圧器の納期も平均2〜3年かかっていると指摘しています。すでに通電している接続や変電設備は、新たに確保しようとすると時間のかかる資産です。

一例として、米コア・サイエンティフィックは2024年6月、AIクラウド事業者コアウィーブ向けに約200MWのHPC用インフラを12年契約で提供すると発表しました。既存の拠点を改修し、その投資はコアウィーブが負担する内容で、対象拠点のマイニング能力は他の拠点へ移す計画としていました。

ただし、同じ施設で動く需要でも、電力需要としての性格は大きく異なります。

観点

ビットコイン・マイニング

AI・HPC

止めたときに失うもの 

止めた時間の報酬の期待値 

顧客へのサービスと契約上の責任、高額な設備の遊休 

稼働率 

電力価格に応じて変えやすい 

高い稼働率が前提になりやすい 

電力・設備への要求 

止まることを前提にした運用が可能 

安定した供給と、電源・冷却の冗長性 

通信 

大容量回線は必ずしも必要ない 

大容量で複数経路の回線 

IEAは2025年の報告書で、AI向けデータセンターはアルミ製錬所の10倍資本集約的であり、系統のために稼働を抑えるコストが高いと指摘しています。2026年の報告書では、AIデータセンターで1秒以内に定格容量の50%を超える負荷の変動が繰り返し起きるとしています。マイニング施設をそのまま転用できるとは限らず、冷却方式の変更や電源の冗長化、通信回線の敷設が必要になります。カナダのDMGブロックチェーン・ソリューションズは2026年9月14日のリリースで、施設の転用にあたり、遠隔地での通信回線の確保が長い準備期間を要する懸念の一つだったと説明しています。

つまり、同じ接続容量を「止めやすい需要」に使うか、「高い稼働率を前提とする需要」に使うかという選択が生まれた、という構造です。どちらが有利かは、契約条件、資金調達、BTC価格などによって変わり、マイニングを続ける企業もあります。AIデータセンターの側でも、接続を早める代わりに系統の都合による抑制を受け入れる接続形態(ERCOTの新たな接続手続きなど)が導入されつつあります。止められる需要が止めにくい需要に置き換わる場合、その地域の系統にとって柔軟性がどう変わるのかも、論点の一つです。

ニュースを読むときの視点

マイニングと電力に関するニュースは、数字が「量」「止め方」「電源」「企業の事業判断」のどれを表しているかを分けて読むと、位置づけが見えやすくなります。 

  • 「マイニングが国の電力の○%を消費」 → 量の話です。どの時間帯・どの地点で使ったかは、この数字からは分かりません。 

  • 「マイナーが電力網に○MWを戻した」 → 需要を減らした話で、発電ではありません。価格を見た自主的な停止なのか、系統運用者の指令によるものなのかも確認します。 

  • 「マイニングの再エネ比率が○%」 → 調査の対象範囲と、自己申告かどうかを確認します。マイニングが再エネの導入を増やしたという因果とは別の数字です。 

  • 「マイナーが停止で○ドルを受け取った」 → 固定価格契約の差額なのか、待機への対価なのかで、意味が変わります。 

  • 「マイニング企業がAIデータセンターへ転換」 → 一部拠点の改修なのか、特定拠点でのマイニング停止なのか、マイニング事業からの撤退なのかは、別々の出来事です。 

接続済みの電力容量を、止められる計算に使うのか、止めにくい計算に使うのか。その配分は企業ごとの判断であると同時に、それぞれの地域の系統がどれだけの柔軟性を持てるかにも関わっています。 


よくある質問

Q. マイニング施設ができると、周辺の電気代は上がりますか?

一概には言えません。需給が逼迫した時間や送電制約のある地点で大きな需要が加われば、卸電力価格を押し上げる方向に働きます。価格に応じて稼働を落とす需要であれば、影響を和らげる場合があります。送電設備の増強費用を誰が負担するかといった制度設計も、最終的な電気代に関わります。テキサス州のSB6は、大型負荷に接続費用の負担を求める規定を設けています。

Q. マイニング施設は、そのままAIデータセンターとして使えますか?

多くの場合、改修が必要です。系統への接続、変電設備、用地、電力契約は活かせる可能性がありますが、AI・HPC向けには、高密度の冷却、電源の冗長化、大容量の通信回線などが求められます。公表されている契約でも、既存施設を改修する前提で結ばれた例が見られます。

Q. 日本でも、マイニングを電力の需給調整に使う動きはありますか?

東京電力パワーグリッドの子会社アジャイルエナジーXが、太陽光発電の出力制御の回避や系統混雑の緩和を目的に、マイニング機器を使った実証を行っています。ただし、日本の電力市場は米国の市場と仕組みが異なるため、米国の事例がそのまま当てはまるとは限りません。

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