
ビットコインはなぜ止められていないのか
ビットコインのネットワークがこれまで全体として停止していない大きな理由は、停止を決めたり実行したりできる運営者も、そこを落とせば全部が止まる中央のサーバーも存在しないためです。どこかの会社のシステムが動いているのではなく、世界中に散らばったコンピューターが同じルールのソフトウェアを動かし、同じ記録を持ち合っています。
一つのブレーカーで建物中の明かりを消せる場合と、家ごとに自前の電源がある街の場合とでは、全部を暗くするために必要な手間がまったく違います。ビットコインは後者に近い形で成り立っています。
では、その「家」にあたるのは誰なのか。一部が止まったときに何が起きるのか。そして、これまで本当に問題が起きていないのか。順に整理します。
そもそも「ビットコインが止まる」とは何を指すのか
「止まった」という言葉は、実際には三つの別々のことを指しています。混ざったまま語られやすいので、先に分けておきます。

一つめは、ネットワークそのものが止まる状態です。新しいブロック(取引をまとめた記録のかたまり)が作られなくなり、取引の確認が進まなくなることを指します。
二つめは、取引所やウォレットアプリが使えなくなる状態です。これらは会社が運営するサービスなので、メンテナンスや障害、規制への対応によって停止することがあります。
三つめは、ある地域からネットワークにつながりにくくなる状態です。通信規制やインターネットの遮断が起きれば、その地域の利用者は接続に苦労することになります。
このうち、「ビットコインが止まった」と受け取られやすいのは二つめです。ただ、取引所が入出金を停止しているあいだも、ネットワーク自体は記録を更新し続けています。ある会社のサービスが止まることと、記録の更新そのものが止まることは、別に起きる出来事です。「盗まれた」「破られた」と報じられる出来事にも同じ切り分けが必要で、そちらはビットコインはハッキングされるのかで整理しています。
誰がビットコインを動かしているのか
特定の運営者はいません。世界中の参加者がそれぞれビットコインのソフトウェアを動かし、同じルールで取引を確認しています。この参加者は「ノード」と呼ばれます。
ノードがしているのは、届いた取引やブロックがルールに合っているかを自分で確かめることです。誰かの判断を信じて受け入れるのではなく、それぞれが手元で検証します。ルールに合わない記録は、どこから届いたものであっても受け取られません。
ただし、ノードが管理者というわけではありません。一つのノードが他のノードに指示を出せるわけではなく、順位も本部もない状態です。だから「ここを止めればネットワークが止まる」という場所が見当たりません。ノードの仕組みそのものはビットコインノードの仕組みと役割で詳しく扱っています。
もう一つ、役割の違う参加者がいます。取引をまとめて新しいブロックを作る計算に参加するコンピューターで、この作業はマイニングと呼ばれます。ノードが「ルールに合っているかを確かめる側」、マイニングが「記録を書き加える側」という分担です。書き加えられたブロックも、ルールに合っていなければノードに受け取られません。どちらか一方が全体を動かしている、という関係ではありません。
一部のマイナーが止まったら、ブロックは作られなくなるのか
作られなくなることはありません。マイニングには世界中の多数の事業者や個人が参加していて、そのうちの一部が止まっても、残りの参加者によって新しいブロックは作られ続けます。
これは仮の話ではなく、実際に起きています。2021年、中国でマイニングへの規制が強まり、同じ時期に、世界の計算力はピークから半分以下まで下がりました。それでもブロックは作られ続けました。
ただし、影響がなかったわけではありません。参加している計算力の合計(ハッシュレート)が下がると、ブロックが作られる間隔は伸びます。このときも、平均およそ10分だった間隔が2週間ほどにわたって14分前後まで伸び、20分を超えたブロックもありました。
ここで働くのが「難易度調整」です。直近の計算力に合わせて、次の期間のブロック間隔が平均およそ10分へ近づくよう、計算の難しさが自動的に調整される仕組みで、およそ2週間ごとに行われます。2021年7月の調整では、難しさが約28%引き下げられました。記録に残る中で最も大きな下げ幅で、その後、ブロックの間隔は再び10分前後へ近づいていきました。この計算力とコストの関係はハッシュレートとはで扱っています。
つまり、「一社のマイニング企業が止まればビットコインが止まる」という構造ではありません。ただし、どれだけ計算力が減っても影響が出ないという意味でもありません。極端に大きな割合が同時に、しかも長く止まる状況で何が起きるかは、実際に起きていないため確かなことは言えない部分が残ります。
政府はビットコインを止められるのか
国ごとの規制でできることと、ネットワーク全体を停止させることは、別のことです。
政府にできることは実際にいくつもあります。国内の取引所に登録や許可を求める、銀行との接続を制限する、マイニングを規制する、通信そのものを制限する。こうした措置は、その国の利用者にとって、ビットコインを使う手間やコストを押し上げます。「政府には何もできない」ということではありません。
一方で、ビットコインのネットワークは一つの国の設備の上で動いているわけではありません。ある国で取引所がすべて閉じられ、国内のノードが止まったとしても、他の国のノードは同じ記録を持ったまま検証を続けます。規制が届く範囲と、記録の更新が続く範囲が、はじめから一致していません。
先ほどの2021年の例は、この違いが表れた場面でもあります。中国でマイニングへの規制が強まり、同じ時期に世界のハッシュレートは大幅に低下しました。それでも、ネットワークの記録は更新され続けています。「使いにくくすること」と「動作を止めること」の距離は、この程度の規模でも埋まりませんでした。
過去に、ビットコインで問題が起きたことはないのか
起きています。しかも、記録の扱いに関わる重大なものが含まれます。
2010年8月には、ソフトウェアの不具合によって、上限の2100万枚をはるかに超える量のビットコインを作り出す取引がブロックに取り込まれました。修正したソフトウェアは5時間ほどで公開され、その日のうちに、修正後のルールに従う記録が正しい記録として引き継がれています。
2013年3月には、新しいバージョンのソフトウェアが受け入れたブロックを、古いバージョンが受け入れないという食い違いが起き、ネットワークが二つの記録に分かれました。この状態が6時間ほど続き、大手のマイニング事業者が古いバージョンへ戻したことで、一方へ収束しています。このとき、取引所では入金が一時的に停止されました。
どちらの出来事でも、ブロックの生成そのものは続いていました。ただ、最終的にどちらを正しい記録として残すのかが、一時的に定まらない状態になりました。もっとも、稼働率を集計している立場では、この2回を停止時間として数えている例もあります。「一度も止まったことがない」と言い切れるかどうかは、何を停止と呼ぶかによって変わります。
そして、対応のしかたに構造が表れています。どちらの場面でも、復旧ボタンを押した会社はありません。不具合に気づいた人が知らせ、開発者が修正版を用意し、ノードやマイニングの参加者がそれぞれ受け入れるかどうかを判断し、結果として一つの記録に戻りました。時間もかかり、判断の余地もありました。それでも、復旧が一社の判断に依存していなかった点は変わりません。
問題が起きなかったから止まっていない、のではありません。問題が起きても、直す作業が一か所に集まっていなかった、という順序です。
止まらないことは、いつでも快適に使えることではない
ネットワークが動き続けていることと、自分が思ったとおりに使えることは、別に確認するものです。
取引が集中すれば順番待ちは長くなり、先に取り込まれるための手数料も上がります。取引所のシステムに障害が出れば、入出金はその会社の復旧を待つことになります。手元のインターネット接続が切れていれば、ネットワークが動いていても送金の操作はできません。
「止まらない」という説明が指しているのは、あくまでネットワークのことです。そもそも営業時間という区切りが生まれない理由はビットコインはなぜ24時間365日動いているのかで整理しています。また、取引所に預けたままにするか、自分で鍵を管理するか(セルフカストディ)によって、どの種類の停止の影響を受けやすいかも変わります。
よくある質問
ノードが減ったら、ネットワークは止まりますか?
ノードが減っても、残ったノードが同じルールで検証を続け、マイニングによってブロックが作られ続けているかぎり、ネットワークは動き続けます。記録を前へ進めるのはマイニングの側なので、ノードの数だけで更新が止まるわけではありません。ノードの数は、記録の複製がどれだけ広く分散しているかを表すもので、「何台を下回ると止まる」という決められた線があるわけではありません。
マイナーが全員止まったらどうなりますか?
新しいブロックは作られなくなります。ただし、それまでの記録が消えるわけではなく、ノードが持っている過去の記録は残ります。実際には、世界中の事業者や個人がそれぞれの判断で参加しているため、全員が同時に止まる状況は考えにくいものです。そのうえで、そうなった場合に何が起きるかは実例がなく、確かなことは言えません。
インターネットが止まったらビットコインも止まりますか?
世界中の通信が同時に止まれば、記録を共有し続けることはできません。ただ、一部の地域が遮断された場合は、その地域の参加者が接続しにくくなるだけで、他の地域では更新が続きます。遮断が解けた側は、その間に進んだ記録を受け取って追いつくことになります。
将来も止まらないと言えますか?
言い切れるものではありません。これまで全体として止められていないのは、止める判断を下せる場所が見当たらない構造によるものですが、それは停止が起こりえないという証明とは違います。ソフトウェアの不具合や、まだ想定されていない事態の可能性は残ります。2010年と2013年の出来事は、その可能性が現実になった例でもありました。
「止められていない」をどう読むか
ビットコインが止められていないという説明は、丈夫さの話として受け取られがちです。ただ、その中身は個々の機械が壊れにくいという話ではありません。止めるという判断を下せる場所が、どこにも置かれていないという設計上の帰結です。
そのため、一部の参加者やサービスが止まっても、それだけではネットワーク全体は止まりません。同時に、規制で使いにくくなることも、取引所が止まることも、自分の接続が切れることも、それぞれ別に起こります。「ビットコインが止まった」という言葉を見かけたときは、止まったのがネットワークなのか、サービスなのか、自分の接続なのかを分けて読むと、実際に何が起きたのかがつかみやすくなります。



