
売らずに借りる:ビットコインを担保にする仕組み
担保として見たときのビットコイン
担保は、返済できなかった場合に備えて差し出す資産です。住宅ローンにおける不動産、証券担保ローンにおける株式と同じ位置に、ビットコインが入ります。貸し手が担保に求めるのは、価値がはっきりしていること、必要になったときに売って回収できること、預かっている状態を確認できることの三つです。
ビットコインはこの三つと相性の良い性質を持っています。市場は週末も夜間も動き続け、価格が途切れません。国をまたいでも同じ一つの資産で、移転にかかる時間も短い。担保がどのアドレスにいくら置かれているかは、ブロックチェーン上で確かめられます。評価や売却に時間と手続きを要する不動産とは、この点が大きく異なります。
扱いにくい面もはっきりしています。価格の振れ幅です。担保の価値が短期間で大きく動く資産では、貸し手は条件を厳しめに設定することになります。ビットコイン担保の仕組みの多くは、この一点への対処として組み立てられています。
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LTV——いくら借りられるかを決める数字
担保付きの融資で最初に出てくるのがLTV(Loan to Value/担保掛目)です。担保の価値に対して、いくらまで借りられるかの比率を指します。計算は「借入額 ÷ 担保の評価額」で、1,000万円分のビットコインを預けて400万円を借りれば、LTVは40%です。
ビットコイン担保のLTVは、株式や債券を担保にする場合より低めに設定されるのが一般的です。価格が下がったときに、担保の評価額が借入額を下回るまでの余裕を厚く取っておく必要があるためです。
LTVは契約時に固定される数字ではありません。価格が下がれば、担保の評価額も下がります。借入額は変わらないまま、割り算の分母にあたる担保の評価額だけが小さくなるため、比率としてのLTVは上がっていきます。あらかじめ決められた水準を超えると、追加の担保を差し入れるか、借入の一部を返済するよう求められます。これがマージンコールです。それにも応じられない場合、担保の一部または全部が売却され、返済に充てられます。担保の清算と呼ばれる状態です。

先物取引の清算と混同されやすいのですが、別の出来事です。先物の清算は契約が強制的に閉じられることを指し、担保の清算では実際のビットコインが売られます。価格の下落が広い範囲で担保清算を招くと、その売りがさらに価格を押し下げる展開につながることもあります。
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預けたビットコインの鍵は誰が持つのか
担保に差し出したビットコインは、返済が終わるまで自由に動かせない状態に置かれます。その「動かせない状態」をどう作るかは、サービスによって違います。
一つは、貸し手やサービス提供者がそのまま保管する形です。借り手はビットコインを送り、返済後に返却を受ける。手続きは単純ですが、その間の鍵を管理しているのは相手方です。
もう一つは、独立したカストディ事業者が預かる形。貸し手とは別の会社が保管するため、貸し手の経営状況と担保の保管場所が切り離されます。
複数の鍵で共同管理する形もあります。例えば3つの鍵を借り手・貸し手・第三者が1つずつ持ち、そのうち2つが揃わないと動かせない設計(マルチシグ)です。貸し手が単独で担保を動かすことはできず、借り手も返済前に単独では引き出せません。鍵を一者に握られるリスクは下がりますが、相手方の経営破綻や契約上の扱いをめぐるリスクが消えるわけではありません。

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再担保——預かった担保がその後どう扱われるか
受け取った担保をさらに別の取引に使うことを、再担保(リハイポセケーション)と呼びます。担保として置かれているはずのビットコインが、実際には別の場所で運用されている状態が起こりえます。
2022年に複数の暗号資産レンディング企業が経営破綻した際には、預けた資産が想定どおりに保管されていたのかが大きな論点になりました。担保に出す条件を読むときは、鍵を誰が持つのかと並んで、再担保が行われる契約なのかどうかが見られるようになっています。
なぜ売らずに借りるのか
ビットコインを売れば資金は手に入りますが、保有そのものが手元から消えます。その後に価格が上がっても、その分は自分のものではありません。売却によって損益が確定し、税務上の扱いが生じる点も、国や制度によって条件が異なります。
保有を続ける前提に立つと、資金が必要になったときの選択肢は「売る」か「借りる」かに分かれます。担保はこの後者を成立させる手段です。ビットコインを持ち続けたまま、その価値を裏づけとして資金を得る。長期保有を方針として掲げる企業が、保有量を減らさずに資金を調達する手段として使う例も語られます。
一方で、売らずに済ませたはずの取引が、結果的に売却につながることもあります。価格が大きく下がって清算に至れば、担保のビットコインは下がった価格で売られます。最も手放したくない局面で手放す形になりうるという点は、担保という仕組みに常について回ります。LTVを低く抑えるほど清算までの距離は遠くなりますが、そのぶん借りられる金額は小さくなります。この綱引きが、条件設定の中身そのものです。
ニュースをどう読むか
「ビットコイン担保ローンの残高が増加」 → 売られずに担保として置かれたビットコインが増えた、という読み方ができます。ただし、その担保がどこで誰に保管されているかまでは、この数字からは分かりません。
「企業がビットコインを担保に借入」 → 保有を維持したまま資金を調達した構図です。保有量は減らない一方で、その分のビットコインは契約に紐づいた状態になります。
「担保の清算が発生」 → 実際にコインが売却された出来事です。先物の清算(契約の強制決済)とは区別して読みます。
サービスや契約の条件を見るとき → LTVの水準、追加担保が求められるライン、鍵の保管方法、再担保の有無。この四つで性格の大半が決まります。
預けている間、手元に残るもの
ビットコインを担保に出しても、値動きによる損益は借り手のものです。価格が上がればその分は残り、下がれば負担になります。手放していないという感覚は、この点では正確です。
変わるのは鍵の側です。担保として預けている間、そのビットコインは自分の判断だけでは動かせません。誰の許可も要らずに送金できるという性質は、返済して鍵が戻るまで、いったん外部の管理下に置かれます。ビットコインの特徴として挙げられる「誰の負債でもない資産」という性質も、担保として差し出した時点で、その一枚は契約と相手方の管理の上に乗ることになります。
これは担保という仕組みの欠陥ではなく、担保とはそういうものだという話です。どちらか一方が正解でもありません。長期保有分は自分で鍵を管理し、必要な資金は別の方法で用意する人もいれば、保有を崩さない手段として担保を選ぶ人もいます。自分のビットコインのうち、どこまでを自分の管理下に置いておくかという配分の問題です。
ビットコインを担保に出すとは、値動きによる損益を自分に残したまま、一定の期間だけ鍵の管理を契約に預けることです。金利や借入期間と並んで、その鍵がどこにあるのかが、条件を読むときの読みどころになります。



